気象技術の教室 2



アメリカのトルネード警報の精度検証 

(話題提供:気象庁が「竜巻注意情報」3月発表にあたり)

気象庁はこの3月から「竜巻注意情報」の発表を予定しています。(気象庁
米国にはこれと類似した情報として、トルネード警報があり、長い歴史があります。 最近の雑誌に、トルネード警報の精度を、主としてFalse Alarm Rate (空振り率) の面から考察した論文*が掲載されていたので、要点を紹介します。

2003年のFalse Alarm Rate (FAR) は 0.76 でした。つまり4回に1回だけ実際にトルネードが発生したということです。FARの値は一般に警報対象領域が小さくなると共に増大すると考えられますが、トルネード警報は郡(County)あるいは郡を分割した領域に対して発表されます。トルネード多発地帯であるカンザス州やオクラホマ州の郡は、40km平方程度の広さであり、気象庁の警報の二次細分区域と似たスケールとなっています。米国NWSは、2010年にはFAR を0.70まで改善することを目標としています。ちなみに、Flash Flood Warning (大雨洪水警報に類似)のFARは、2005年の時点で0.46でした。

FARは予報と実況を対比して、Yes−Noの2カテゴリー分割表から計算されます。トルネードの場合、発生がすべて把握できていないので、これがFARを大きくする原因の一つと考えられます。さらに発生はしなかったがニアミスの状態となっていた場合、つまり「Close Call」も精度検証の際に考慮すべきとしています。また、FARの増大を気にするあまり「見逃し」が増えるような事のないよう警告しています。

FARが多いといわゆる「狼少年」効果で、警報に従って行動しようという気持ちを低下させるという意見はよく聞かれるます。しかし、最近のいくつかの研究では、利用者は空振りに対し寛容であるとか、ニアミス的な空振りを経験することが、将来の適切な防災対策に役立つといった結論になっていることが紹介されています。

ニアミスつまり「Close Call」には色々のタイプが考えられ、「強度が警報基準に僅かに及ばなかった」「時間帯や領域域が少しズレていた」などがあります。論文では、まずトルネードの強度に着目し、図1のような概念モデルを提案しています。これは、ニアミスを考慮するために「完全な見逃し」から「完全な空振り」までの間を連続的な尺度で検証するものです。さらに、時間帯および地域のニアミスも考慮した、より包括的な精度検証モデルの必要性を強調しています 。
2008年2月13日  立平 良三


*:図1 Wea. Forecasting, 22, 1140-1147より


閉じる