気象技術の教室 1  天気系の解説と事例解析


気象事例の解析

南岸低気圧の発生と発達(1)
 -山岳の影響による南系のトラフの発生-
 -南系のトラフと中間系のトラフの相互作用-

(各事例へジャンプ)
事例A 2009年4月11日に日本のはるか南海上で発生
事例B 2009年1月29日に東シナ海で発生
事例AとB 全体のまとめ

はじめに
◆ 解析の問題意識

天気系の解説4」で提示した問題意識に基づき、南岸低気圧 (1) の発生と発達を具体事例で検討する。
四つの問題意識は、以下のように要約される。
①「解説 4-4-1」 日本付近では低気圧の発生と活動域は南北二つの緯度帯に別れて存在することが多い(解析事実)が、二つの活動域に対応する前線帯の特性の差に関する議論は少ない。
②「解説 4-4-2」 北側の前線は寒帯気団と中緯度気団の間に存在する寒帯前線、南側の前線は中緯度気団と熱帯気団の間に存在する亜熱帯前線と見なせる。亜熱帯前線の鉛直構造は寒帯前線の鉛直構造と同じか異なるのか。
③「解説 4-4-3」 北側の前線帯の低気圧と南側の前線帯の低気圧(南岸低気圧)は、上層のトラフと地上低気圧の位置関係などの構造や時間経過が同じか否か。
④「解説 4-4-4」 南岸低気圧のいろいろなタイプを分類・整理する。

なお、以下の説明では以下の用語を用いる。
寒帯前線ジェット気流(Pジェット)近傍のトラフを北系(のトラフ)、亜熱帯ジェット気流(Sジェット)近傍のトラフを南系(のトラフ)、PジェットとSジェットの間の流れに発生するトラフを中間系(のトラフ)と呼ぶ。 また二つの傾圧帯(前線帯)が存在するとき、南側を南側の傾圧(前線)帯、北側を北側の傾圧(前線)帯と呼ぶことがある。



(1) 予報の現場では、以前から南岸低気圧は予報作業上注目すべき擾乱として議論されている(例えば天気予報指針(1973))。
但し南側の前線も寒帯前線であるという認識なので、ここで述べるような議論はなされていない。


事例解析
ここでは、南系のトラフに関連して発生し、中間系のトラフの影響で発達した以下の二つの南岸低気圧を扱う。
事例A:2009年4月11日に日本のはるか南海上で発生
事例B:2009年1月29日に東シナ海で発生

事例 A 2009年4月11日に日本のはるか南海上で発生 Top
1) 低気圧の発生と広域場の特徴
(i) 地上天気図と低気圧
 図1は、2009年4月11日15時の地上天気図である。 紀伊半島のはるか南に1014hPaの南岸低気圧(Ls)があり、この時刻に初めて解析された。
北の方をみると、ほぼ北緯50度から60度の緯度帯でバイカル湖の東、カムチャッカ半島の南、アリューシャン列島の東端付近へと西から東に低気圧が存在している。 バイカル湖の東の低気圧(
Lp)と、カムチャッカ半島の南の低気圧の13日09時までの移動経路を太実線で示す。 どちらもほぼ西から東へ移動している。
問題意識①で指摘したように、日本付近の経度帯では北緯50度~60度帯と日本の南の北緯25度付近に南北二つの低気圧活動域が存在している。 北側の低気圧は、Pジェットに関連した低気圧(後述の500hPa図参照)で寒帯前線(
Fp)を伴っている。 前線Fpの南側には、東経155度付近から西経170度付近まで、ほぼ北緯30度線に沿って前線が描かれている。
この前線は、寒帯前線の北側から移流して変質した中緯度気団と、太平洋高気圧から吹く熱帯気団の境界にあるので、ここではこの前線を亜熱帯前線(
Fs)と呼ぶ。 低気圧Lsに伴う前線も大局的には、前線Fsに連続している。
(ⅱ) 500hPa
 図2は、図1より6時間前の11日9時の500hPa図である。 500hPaの強風軸が、バイカル湖の北からカラフトを通って、カムチャカ半島の南に延びている。 低気圧
Lp(X印)はPジェットの南側にある。
九州の南の東経130度付近には、南系の短波のトラフ(TS)がある。 トラフ
Tsを構成している 5820mと5760mの等高線の間隔は、狭くて相対的な強風域(二本の等高線の中間を強風軸と見なす)となっている。 この強風域は、ヒマラヤ山塊の南側を通って西に延びていて、東経140度以西では、この強風域の北側は幅広い弱風域となっている。
500hPa図に見られる南側の強風域を、仮に南系の強風域と呼ぶ。 南系の強風域と200hPa付近にあるSジェットとの関係、南系のトラフ
Tsの構造は後(【A】-3)で考察する。
低気圧
Lsの11日15時の位置を、X印で示す。 Lsの位置は、発生当初から南系の強風軸付近で、強風軸との関係は低気圧Lpと異なる配置になっている。
図2では、Pジェットと南系の強風域の中間の流れ、北緯40度、東経118度付近に中間系の短波のトラフ(
Tm)がある。 南岸低気圧の発達の時間経過に関連して、トラフTmにも着目する。 Tmは、地上の低気圧を伴っていない。
(ⅲ) 850hPa
図3は、11日9時の850hPa図である。 温度傾度の非常に強い傾圧帯が、バイカル湖の南から蛇行しながら北海道の南を通り、カムチャッカ半島の南の低気圧で閉塞前線の形態となっている。 これがPジェットに対応する下層の傾圧帯で、低気圧
Lpは下層の傾圧帯の南にある。
弱いながらも相対的に温度傾度の大きい帯状域が、日本の南の北緯25度付近を東西に延び、東経150度以東では北緯30度線に沿って延びている。 これが、前線
Fsに対応する南側の傾圧帯である。 この傾圧帯付近では、湿数が小さい。 南側の傾圧帯は、500hPaの南系の強風域の下付近にあり、Pジェットと下層の傾圧帯の位置関係とは異なっている。 南側の傾圧帯(前線帯)を亜熱帯前線と呼ぶことにしたが、この事例の前線帯相当温位(図省略)は320度~330度で、梅雨前線付近の相当温位、330度~340度より10度程度低い。
図3には、低気圧
Lsの11日15時の位置(X印)とトラフTMも示す。 南の傾圧帯に沿っては風の収束はみられるが、地上低気圧Lsに対応する低圧部や温度場は見られない。
2) 低気圧の時間経過
 図4に、11日21時(a)、12日9時(b)、21時(c)、13日9時(d)の低気圧
Ls近傍の地上天気図を示す。
低気圧
Lsの中心気圧は、1012→1010→1006→1000hPaへと次第に発達の度合いが大きくなっている。 発生から18時間後の12日9時にはすでに閉塞前線が描かれている。
 図5(a、b、c、d)と図6(a、b、c、d)は、それぞれトラフ
TsTmを含む領域の11日21時から13日9時まで12時間毎の、500hPa(図5)と850hPa(図6)である。 図5では、低気圧LSの位置がX印で示されている。
図5によれば、トラフ
TmはトラフTsより移動速度が大きく、次第にTsに追いついて13日9時では、一つのトラフの形態となっている。 トラフTmがトラフTsに追いつく過程で、次第に深まりより低温の空気も南下している。 一方トラフTSは南側から次第にトラフの形態が不明瞭となっている。
図5(d)をみると、Pジェットの主体は13日9時には東経140度で北緯48度付近にあって、東西に流れている。 中間系の流れは、東経120度付近でPジェットからの分流が明瞭になっていて、トラフ
Tmを形成して寒気を南下させ、地上低気圧を次発達させたと解釈される。
図6(850hPa)によれば、低気圧
Lsに対応する循環が時間とともに次第に850hPaでも明瞭となり、同時に前線に対応する温度場の形態も形成され、12日21時では温暖前線、寒冷前線の温度場が明瞭である。
3) 南系の強風域と南系のトラフ
 図6の時間経過を見ると、図1でカムチャッカ半島の南にあった低気圧の発達に伴って、日本の東海上で寒気が南下している。 一方低気圧
Lsの発達により、その東側で暖気が北上し、東経150度以東では前線帯FpFsが一つの幅広い傾圧帯を形成している。 この状態は、寒帯気団と熱帯気団が接している状態と見ることができる(解説4の図4および図5参照)。 この幅広い傾圧帯の南側等温線は、日本のはるか南を通って華南に達する弱い傾圧帯を形成し、北側の等温線は、東経150度付近で北側に延びて、寒帯前線の傾圧帯に合流している。 日本付近から西側では、南北二つに分離している傾圧帯が、日本の東側で合流する傾向は日本付近で見られる特徴的形態である。
図7は11日21時の北半球500hpa図で、実線は等高度線、破線は等温線である。 ヒマラヤ山塊の下流域の東経90度付近から東経140度付近では、北緯30度~北緯40度の相対的弱風域を挟んで南系の強風域とPジェットの強風域が存在している。 南系の強風域は偏西風帯の流れの最も南側にある。
図8は11日09時の東経130度に沿う鉛直断面図で、等風速線(太実線)、等温線(赤色実線)、等温位線(細実線)が示されている。 北緯45度以北の高度225hPaに、Pジェットが推定される。 一方名瀬より南の高度200hPaにSジェットが存在していて、九州から朝鮮半島南部は、相対的弱風域になっている。 Sジェットの強風コアの位置は図8でははっきりしないが、200hpa(図省略)の強風軸は、東経130度では北緯23度~25度付近にあり、500hPaでの南系の強風域(図7、図2)のほぼ真上にある。Sジェットあるいは500hPaの南系の強風域と図3で見られる南系の下層の前線帯との上下のつながりはこの図の範囲外なので論じ得ない。
図2のトラフ
Tsは、どのように発生したのだろうか。 図9は、4月9日21時の500hpa図に5760m高度のトラフTsの6日21時、7日21時、8日21時の位置を示している。 トラフTsは、6日21時にヒマラヤ山塊の風下で急に現れて東進し、5700m高度でみると7日21時に最も深まり、8日21時から10日にかけて弱まりつつゆっくり東進した。 この時間経過は、トラフTsがヒマラヤ山塊の影響で発生したことを示唆する。 なお4月6日から11日まで、トラフに対応する地上低気圧は発生しなかった。 これも今後検討すべき課題である。

4) 事例A まとめ
 上述をまとめると、次の通りである。





図 1









図 2











図 3








図 4

図 5

図 6

図 7

図 8

図 9
(ⅰ) 日本付近の対流圏下層では南と北に二つの傾圧帯が存在していた。 一つはPジェットに対応する温度傾度の大きい傾圧帯で、もう一つは日本の南にあり温度傾度の弱い傾圧帯である。
南側の傾圧帯の上空にはSジェットが存在していた。
(ⅱ) Sジェットの200hPaの強風域,500hPaの南系の強風域,850hPaの南系の傾圧帯は、日本付近ではほぼ同じ緯度にあった。 ただし上層の前線帯と下層の前線帯の上下つながりなどは、データ不足で解析できなかった。
(ⅲ) ヒマラヤ山塊の風下で、4月6日に短波のトラフTsが発生しゆっくり東進した。
(ⅳ) 11日にトラフTs伴って、南側の下層の傾圧帯のところで南岸低気圧 (Ls)が発生した。
Lsが発生するまで、Tsに伴う低気圧は存在しなかった。
(ⅴ) PジェットとSジェットの中間(相対的弱風域の流れ:中間系)に発生したトラフTmが次第に深まるとともにトラフTsに追いつき、一つのトラフを形成した。 この過程で地上低気圧LSの発達度合いも大きくなった。 南系のトラフと中間系トラフの相互作用が重要と見られる。
一種のカップリングと言える。
(ⅵ) 低気圧Lsは発生してから18時間後には閉塞したと解析されている。 急速な閉塞は、低気圧が発生当初からSジェットの北側の低気圧性シアーの大きい領域に存在していたことによると推定される。

事例 B 2009年1月29日に東シナ海で発生した低気圧Topへ






図 10






図 11a
     
図 11b


図12 
 PジェットとSジェットが合流していることが多い寒候期にも、事例【A】と類似な南岸低気圧が発生した例である。 なお当日は、全国的に3月から4月並みの高い気温となり、屋久島では1時間70mmを越える強雨を観測した。
1) 低気圧の発生と広域場の特徴
(ⅰ) 地上天気図
 図10に、2009年1月29日21時の地上天気図を示す。 東シナ海に、1014hPaの低気圧(
Ls)が発生した。 またカラフトの東に前線を伴った低気圧(Lp)があり、その東方にもアリューシャン列島にかけて北緯50度から55度に沿って低気圧がある。 また日本のはるか東、東経178度,北緯37度付近にも前線を伴った低気圧(Ls2)がある。
低気圧
Lpは、27日9時のバイカル湖の南方の位置からやや南下しながら東進した。 低気圧 Ls2は、28日3時に北緯30度、東経153度付近で発生して移動したもので、ここで議論している南岸低気圧と類似している。 また北緯40度,東経155度を中心とする高気圧は、27日9時には黄海にあってそこから東進した中緯度の気団といえる。 29日21時の前後の気圧系の動きは、南北の移動が小さくおおむね東進傾向であった。
低気圧
LpLs2は中緯度気団の高気圧で隔てられており、事例【A】の場合と同様にLpに伴う前線とLs2に伴う前線を寒帯前線(Fp)、亜熱帯前線(Fs)と呼ぶことにする。
(ⅱ) 500hPa
 図11(a)は、29日21時の500hPa図である。 
X印は、低気圧LSの位置である。 Pジェットはバイカル湖の南を通って北海道付近に達し、そこからほぼ東に延びている。 東経115度付近の華南には短波のトラフ(Ts)があり、等高度線5760mに沿って南系の強風域となっている。 地上低気圧は、500hPaの南系の強風域の北側で低気圧性シアの領域にある。 Pジェットと南系の強風域の間は相対的な弱風域となっている。
  図11(b)は、トラフ
Ts付近の28日21時と29日9時における500hPaと850hPa図を示している。 トラフTsは、28日21時にヒマラヤ山塊の東側の東経105度付近に現れ、その後波長が短くなって東進した。 事例【A】の場合と同様に、ヒマラヤ山塊の影響でトラフが形成されたとみられる。 トラフTsの前面には850hPaでもトラフが形成され、その東側で南西風が顕著である。 この暖気移流が、地上低気圧Lsの発生に寄与していると見られる。 南系の強風域とSジェットとの関係など鉛直構造は、後述(3)南系の強風域の鉛直構造で調べる。
(ⅲ) 850hPa
 図12は、南岸低気圧
Lsが発生した29日21時の850hPa図である。
X印は、Lsの位置を示す。 Pジェットに対応する温度傾度の強い傾圧帯が、バイカル湖の南から北海道の北にのびている。 この傾圧帯の北側の寒気は、東経150度以東で大きく南下していて、そこで寒帯気団と熱帯気団が接している形態であり、事例【A】の場合と類似である。
 南側の傾圧帯は、東経145度より東では北緯30度付近で明瞭である。 日本付近ではやや不明瞭だが、華南では寒気の南下で温度傾度が強く明瞭である。 図12では地上低気圧を囲む大きな低圧部があり、風の循環もはっきりしているが中心付近では温度傾度が弱い。
 2) トラフと低気圧の時間経過
 図13(a、b、c、d)に、2009年1月29日21時から31日9時まで12時間毎の地上天気図を示す。 29日21時に東シナ海に発生した低気圧(1014hPa)は、その後12時間毎に6hPa~12hPa深まり、30日21時には中心気圧が996hPaとなって紀伊半島沖に移動した。 発生期に前線はなかったが、 30日21時には前線が描画され12時間後の31日9時では閉塞前線が描かれている。
 図14には31日9時の500hPa図に重ねて、トラフ
TsとトラフTmの30日21時までの時間経過が12時間毎に示されている。 北緯30度付近を東西に延びている太実線は、31日9時の300hpaでの風速100ノット以上の強風軸である[事例B 3)参照]。 トラフTsはすでに述べたように、28日21時に東経108度付近に発生し、中間系のトラフTmは29日21時に発生した。 トラフTmは次第に振幅を増大しつつトラフTsに追いつき、地上低気圧の発達の度合も大きくなった。 二つのトラフが合体して深いトラフを形成するカップリングの形態は事例【A】と類似している。
 3) 南系の強風域の鉛直構造
 図15は、30日9時の東経130度に沿う鉛直断面図である。 図14のトラフの時間経過からわかるように、断面図はトラフ
Tsの前面にあたる。 太点線は等風速線(ノット)、太実線は等温位線、細実線は等温線である。
Pジェットは、北緯45度以北で高度300hpa付近と見られる。 福岡上空の高度275hpa付近に強風の中心があるが、Sジェットの主体は名瀬の上空と見られる。 鹿児島と名瀬の間の高度 250hPa付近から、等温位線が南に延びつつ緩く下降していて水平傾度も大きい。 これに対応して等風速線の密集も見られ、これが上層の亜熱帯前線と見られる。 断面図で見ると亜熱帯前線帯は、南大東島上空で高度350hpa付近にあり、図11(a)や図14で見られる500hPaでの南系の強風域に至る鉛直構造は、この断面図ではわからない。



図 13

図 14

図 15
         

事例AとB全体のまとめ
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 事例AとBは地上低気圧の発生場所は異なっていたが、発生時の環境場や時間経過は類似している。
詳細はそれぞれのところ説明してきたので、以下に事例AとBを合わせてまとめを行う。


1) 南北二つの強風帯
500hPaでは、Pジェットに伴う相対的に北側の強風帯と、南側の強風帯の二つの強風帯が存在していた。 南側 (系)の強風帯は、Sジェットの下(事例A)からやや南側(事例B)に存在していた。
500hPaの南系の強風帯と対流圏上層、200hPa付近の亜熱帯前線帯とのつながり等の鉛直構造は、用いた鉛直断面図の範囲外ではっきりしない。 別の機会に検討したい。 。
2) 南北二つの前線帯
対流圏下層では北側の傾圧帯(前線帯)と、南側の傾圧帯(前線帯)の二つが存在していた。 北側の傾圧帯はPジェットの暖気側にあり、寒帯気団と中緯度気団の境界にある寒帯前線帯といえる。 南側の前線帯はSジェットの下かやや暖気側にあり、中緯度気団と熱帯気団の境界で亜熱帯前線帯(1)といえる。 南北二つの傾圧帯の存在は日本付近から西、バイカル湖方面やヒマラヤ山塊の西側へかけで顕著で、東経150度以東では寒帯気団の南下で、二つの傾圧帯が合流していた。
3) 南系の強風帯の短波のトラフ
500hPaの南系の強風帯で、短波のトラフが華南から日本付近に東進した。 短波のトラフはヒマラヤ山塊の東側で現れていて、その形成には気流が山岳を越えるときの影響が大きいと推測される。
4) 南岸低気圧の発生
南岸低気圧は、500hPaの南系の強風帯の短波のトラフに関連して、下層の南側の傾圧帯で発生した。 南岸低気圧は、500hPaの南系の強風帯の下からやや北側で対流圏中・上層の低気圧性シアの領域に発生した。 これは、南岸低気圧が急速に閉塞する一つの要因と考えられる。
5) 南岸低気圧の発達
南系のトラフは傾圧度が弱いので、発生当初の低気圧は発達が弱い。 より北側の流れに発生したトラフが南系のトラフに追いついて寒気を補給し、トラフ全体が深まると発達の度合が大きくなる。 これは、南の系と北の系の相互作用によるカップリング発達(Takayabu , 1991)といえる。
今回の事例では北側のトラフは、Pジェットの強風軸から南側に離れた位置にある流れに生じていた。
ここではこれを中関係のトラフ(
Tm)と呼んだ。

(1) 通常は対流圏上層でSジェットの北側から400hPa~500hpaまで延びる傾圧帯を亜熱帯前線帯と呼んでいる。ここでは下層でも亜熱帯前線(帯)という同じ用語を用いた。但し上層と下層の前線(帯)がつながっているとか、一つの(熱)力学的原因で生成されていることを主張しているものではない。


文献
 ・ 天気予報指針(基礎編)、1973。気象庁予報部
 ・ Takayabu, I., 1991: "Coupling devekopment ", An efficient mechanisim for the development of extratropical cyclones.
   J.Met. Soc. Japan,69, pp.609-628..
2009年11月2日  山岸 米二郎




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